卒業論文の実態と対策

15/03/28


1.卒論

2.テーマ

3.構成ー論の展開

a.できるだけ早期に資料収集を!

b.資料探しは要領よく!

c.指導教師はフルに活用する!

d.論理性と実証性を!

@序論 、A本論 、B結論 、C付録・文献表 、D要約


  一宮基督教研究所の卒業論文とは、卒業資格をとるための「論文」のことをいいます。論文は在学中の最終成果ですから、たいてい最終学年の一年間に仕上げます。三年生になってからはじめては取りかかるのが遅れますので、二年生の頃から「卒業論文」のテーマについていろいろと心づもりしておくことが大切と思います。

1.卒論

 質的にも量的にも、救われてから今日までの霊的経験や教会生活、そして聖書学院での二年間の学びの総決算を示すものが卒論です。過去の経験や学びを整理し、卒業後の奉仕の助けとなる研究に取り組まれることをおおすすめします。学院の図書室にあります先輩の卒論や他の神学校の卒業生の卒論なども参考になると思います。今、宣教現場で活躍しておられる過去の先輩が一体どのような問題意識をもって、どのようなテーマを選択し、どのような参考文献を選び、どのように論としてまとめていかれたのかを調べることもかなり参考になります。卒論の枚数としましては、最低でも70、80枚、ふつう100枚から200枚、いやそれ以上、制限はありません。

2.テーマ

 講義というのは基本的に講師から教えられて学ぶ「受身」の学習です。それに比して自分からテーマを選ぶのが卒論です。聖書学院で学んでいる間に、やりたいという意欲の湧いた研究対象と取り組む。それが卒論の姿勢です。十分な時間をかけて、下調べをして、テーマと取り組んでいただきたい。論文用のノートを作成し、思い浮かぶテーマを次々と書き出していくことはよいことです。ノーベル賞を授与されました湯川秀樹博士は、いつも手帳を枕もとにおいて、思う浮かんだすぐれたアイデアは真夜中でも起き上がってメモをされていたそうです。多くの興味と関心を書き留めて、それらの中から、今回の論文で扱いたいテーマをじょじょにしぼっていくのです。とりあえず書いておいて、取り組んでみて、方向転換したり、試行錯誤したりしていくプロセスそのものが貴重な経験です。それらのプロセスを記録しておくことは行きつ戻りつする論文作成のプロセスがどのような展開をとげてきたのか振り返るときの助けとなります。仮のテーマを決めて、アウトラインを第一案、第二案、第三案、…という具合に、スケッチ風に何度も描いてみるとよいでしょう。

3.構成ー論の展開

 テーマが決まりましたら、つぎの仕事は、必要な資料の収集です。資料を収集していく中で、テーマを発見することもあります。

(a)できるだけ早期に資料収集を!

  関連があると思われる先輩の論文、著作を探すことから始まります。それから、関係があるとみた資料へと輪を広げます。中心として参考にする書籍がありましたら、その書籍のうしろに掲載されています参考文献一覧表は貴重な資料リストです。

  私の経験からも、R.H.カルペッパーの「カリスマ運動を考える」のうしろにありました「重要参考文献一覧表」は、カリスマ運動関係の研究におおいに役に立ちました。いろんな立場(ペンテコステ派、カリスマ派、カトリック・ペンテコステ、カリスマ派ではないが中立的、アンチ・ペンテコステなど)のすぐれた神学者の重要参考文献に目を通すことは広い視野から物事を考える力をつけることになります。購入できる書籍、絶版の書籍は図書室などで探します。図書室にないものでも、大きな図書館(関西学院図書館など)では、学外の図書館や欧米の図書館の蔵書をもインターネットで検索して、ありましたら、図書館から図書館へと借り出すことができるようになっています。私の場合、フラー神学校の図書館や英国の図書館から、絶版の図書を見ることができました。

  アマゾンの大河のよに膨大な書籍の中から、自分が取り組もうとするテーマに関する書籍にどのような書籍があるのかを調べることだけでも大変意味があります。それらの書籍の目次をみますと、論の組み立て方の参考になります。序論や結論の作成の仕方もまた。そして本当に貴重な書籍、これからずっと利用するかもしれない書籍は思い切って購入されるとよいと思います

(b)資料探しは要領よく!

  資料探しは、樹木の枝葉が繁るように自然に広がっていきます。学究という、論理と実証を必要とする探求・操作はそういうふうな仕組みに出来上がっていっているものなのです。資料を借り出したら、まず、目次をみて構成を確認します。次に序論と結論に目を通します。そしてその書籍の概要やねらいを押さえておいてから、必要と思われる個所を中心に速読します。ごくおおざっぱに目を通して、必要なところに見当をつけるのです。(自分の本でない場合は、紙切れをはさむとか、論文ノートにページと要点をかきとめておきます。)はじめは大変ですが、慣れてくると案外スピーディにできるものです。この作業を前提として、ノート取りやコピーの仕事がでてきます。そしてこの資料探しのプロセスそのものが、テーマを固めていくうえで重要なヒントを与えてくれるのです。

(c)指導教師はフルに活用する!

  テーマが決まりましたら、指導していただく教師を紹介していただきます。希望する教師にお願いすることもできます。指導教師にはできるだけ最初の段階から相談する方がよいです。学院生活の一、二年の間に研究テーマをしぼっていき、二年の終業式までに「卒論の構想:1.卒論のテーマ、2.卒論テーマの選択した動機、3.卒論のアウトライン、4.卒論の参考文献リスト、5.卒論指導教師の希望」などをA4版用紙の表裏にまとめて、学校に提出するといいでしょう。

  その「卒論構想」をもとに春休み中に「資料探し」などに取り組み始めることができますし、学院側は指導教師の選定にあたることができます。そして三年生の始業式の後、できるだけ早いうちに指導教師との面談のときをもち、「卒論構想」全体について、必要な助言を受けることです。そして月に一度くらいのペースで「卒論の進み具合い」に関連して、中間報告を行い、その都度適切なアドバイスを受けます。「卒論準備ノート」を作成し、思ったこと考えたことをよく書き留めておき、聞きたいことをチェックしておき、面談の時間を有効に使うようにすべきです。

(d)論理性と実証性を!

  論文ですから、当然そこには論理性がなければなりません。その論理性を明確に実現する道は、論の構成です。やはり起承転結が基底になりますが、レポートと違って、かなりの量になるわけですから、序論・本論・結論というふうに大きく分け、さらに本論を「章・節・…」に分けるのが、ふつうの様式です。

  組織神学のエリクソンのテキストにおける各章のまとめ方などは、そのひとつひとつがすぐれた構成の小論文です。たとえば下記の通りです。

●テーマ:「人間における神の像」
〇構成 :序、1.関連聖句、2.像についての種々の見方、3.その見方の評価、4.像の性質に関する結論、結び

●テーマ:「キリストの人格の統一性」
〇構成 :1.問題の重要性と困難性、2.聖書の材料、3.初期の誤謬、4.問題解決の他の試み、5.一人格二性論の基本綱領、結び

●テーマ:「贖いの中心的テーマ」
〇構成 :序、1.背景となる要素、2.新約聖書の教え、3.贖いの基本的意味、4.刑罰代償説への異論、結び

  論理性と実証性について、チャールズ・フィニーという偉大なリバイバリストは、「学校の教師をしたり、弁護士資格試験のかたわら、法律事務所で働いたりした体験が、後の伝道者、また教育者としての仕事に役立ちました。…説教者となった彼は法律の学びを生かして”人を動かさずにいられない論理”と強く心に訴える力を与えてくださる聖霊臨在の意識とをもって、罪人に対する福音を語るのでした。」と紹介されています。

  ウォッチマン・ニーの「キリスト者の標準」も、”フィニーの論理性”とケズィックの詩的・絵画的描写を兼ね備えたものです。「ローザンヌ誓約」において「伝道」を定義して、<共在><告知><説得><対話>の四つの要素をあげています。伝道とか説教とは、ある意味で”説得学”であります。論文作成を契機にして”論理性と実証性”をしっかりと学んでいただきたい。

@序論

 このテーマを選んだ動機、この論文の目的、範囲、研究の方法とか手順などを紹介します。この序論の書き方は、私の「J.D.G.ダンの『イエスと御霊』に関する一考察」の序論も参考になると思います。またいろいろな論文や書籍の「序論」を読まれますと、序論の書き方の妙を学べます。いろんなタイプの序論を書き出してみて、自分の論文の序論のあり方を考えていくのも楽しい時間です。

A本論

 この論文の主体を形成する部分で、大部分の枚数がここで費やされます。スケールによって、<篇><章><節><項>などというふうに編成します。そして、こうした<篇><章><節><項>は、明確な論理性で貫かれ、かつ首尾照応する形で論展開がなされなければなりません。次に、その論展開に実証性を与えるために、先学の論文を引用することです。
  
 自分の論文を進めるのに有力と考えるなら、遠慮なく引用すべきです。まだ神学を学びはじめて数年なのですから、独創的な見解がつぎつぎとでてくるはずがありません。先輩の研究の成果の巧みな引用によって序論にて設定された「問い」に関連して議論を発展させ、ひとつの結論に導いていくのです。神学生の場合、引用の巧妙さは、それ自体ひとつの業績なのです。

 ボエトナーは名著「改革派予定論」の緒言の中で「要するにわたしは他人の花園から色々な花をつみ集めて束にした。わたし自身のものといえば、ゆわえてある紐ぐらいなものだ。」と言っています。

「 ・・・ 新約学のような学問分野には、あらゆる可能な角度から徹底的に調べるまでは意見を文章化しない学者もいるし、十分な結論に達するまでは専門家との対話を好まない学者もいる。…しかし、これらは私の学問研究のスタイルではない。聖書学では専門化と半専門化がすみやかに進行し、それは大規模な産業になり、このひとつの小さな頭脳では、私のテーマでさえ、知るべきことをすべて知りつくすことは、容易ではなくなっている。…私は学問研究が共同作業であり、対話であると考えることを好むのである。半分しか形成されていない私の思考が、誰かにひらめきを与えることができれば、という望みを絶えず抱いている…」 J.D.G.ダンは、謙遜にも”だれかにひらめきを与えることができれば…”という望みをもって神学研究を続けています。

B結論

 ここは軽くてよい。すでに本論の終わりに結論は出てくるはずです。一般に繰り返してまとめるという形をとります。ここで新しいテーマがでてきたり、筋違いの論が現れたら大変です。序論に示された目的、範囲、研究方法がここでうきく結実しなければなりません。首尾照応こそ論文の生命です。

C付録・文献表

 付録は必要があればつけます。文献表は、文献目録ともいいます。引用したり、参考にしたりした著者・論文の類の一覧表です。できるだけ発行・発表の年月、発行所および発表機関の名も明らかにすることが良心的といえます。 書き方は、「著者名『著書名』(出版社、発行年)、引用ページ個所。」と書きます。例として(J.カルヴァン『旧約聖書注解・創世記T』(新教出版社、1984年)p.38。)など。

D要約

 レジュメとも言います。…最大限に所論の内容を簡潔に審査側に明示するためのものです。それぞれの章を要約して、さらに一文にするのですが、量的に膨大なものは、序論・本論・結論をそのままに要約化します。

●この「卒業論文の実態と対策」は、「保坂弘司「レポート・小論文・卒論の書き方」講談社学術文庫、1985、pp.194-202。」からの抜粋・引用を、一宮基督教研究所の神学生のために書き改めたものです。「卒業論文」に関する基本的な事柄を説明し、理解してもらい、卒論作成にはずみをつけることを意図したものです。卒論の書き方の詳細につきましては、図書室に「卒論の書き方」の書籍が十冊くらいありますので、論文作成のときに参考にされたらよいと思います。