卒業論文指導


1. 論文とは何か?

2.論文の構成部分とその順序

3.各部分で何を書くか:序論@

4.各部分で何を書くか:序論A

5.各部分で何を書くか:序論B

6.各部分で何を書くか:序論C

7.各部分で何を書くか:本論@

8.資料の収集ノウハウ


   1.論文とは何か?
 

「論文とは、感想文ではありせん。論文とは何か、一言で言いますと、「問 い−答え」という形式でできているものです。」 

   ですから、論文作成過程で一番大切な要素は、論文を書こうとするあなた が、自分の持っている「問い」をできるだけ深く掘り下げることです。「問 い」を深く掘り下げることができれば、おのずから「解答」が生み出されて きます。まず「問い」を深く掘り下げるプロセスにおいて、参考となる文献 にできるだけ多くあたってみることが大切です。 前回の論文指導におきまして、参考文献にいくつか言及しましたが、それ らに関連して聞きたいことがありましたら、電子メールにてお尋ねください。 それと、各自の@卒論のテーマ、Aテーマ設定の理由・動機、B卒論の構 成(アウトライン)、C参考とする文献リスト、Dその他(卒論作成に関す る質問何でも)を今学期終了日の2−3日前に電子メールにて、送信してく ださい。 それは夏休みに入る前に、助けとなるアドヴァイスをできたらということ のゆえです。また、夏休み明けの九月にはかなり進んだ段階での「論文作成」 の中間報告をお願いします。今年中に八割方仕上げるつもりでいかないと卒 業までにまにあわないと思います。 夏休み中でも、電子メールや電話などでの質問を受け付けますので、できる だけエンジンをふかして、頑張ってください。 


 2.論文の構成部分とその順序
 
 「論文の最も基本的順序は、@目次、A本文(序論・本論・結論)、B文献 表、Cあとがき、ということになるでしょう。」

  本文の各部分の長さ(分量)はおおまかに序論(10%)、本論(80%)、 結論(10%)ということになるでしょう。構成としましては、「起承転結」 とか「首胴尾」とかいろいろなかたちが考えられます。ただ論文の場合は、 小説などとは違って、かならず最初に「問題設定」がなされなければならない ということです。最初において「問題を掘り下げ」、それに対する種々の議論 などを紹介したり、種々の書籍や参考資料の抜粋・引用などを活用しつつ、議 論を展開し、それに解答を与えていけばよいのです。 要するに論文とは、「問題設定」→「議論展開」→「解答」というかたちだ と考えて取り組めばよいものなのです。ですから、あなたの「問題意識」の掘 り下げが論文の生命線ということができます。


 3.各部分で何を書くか:序論@

「『序論』の目的は、ある『テーマ(主題)』に関して「問い」を立てるこ とです。」

 
   「テーマ」とは、研究の対象となるある分野ないし範囲を設定することで す。例えば「親鸞とルター」とか「義認論−カトリックとプロテスタントの 視点−」しかし、ここで大切なことは、「テーマ」の設定だけでは、序論と して不十分であることです。「テーマ」の設定はあくまでこれから議論して いこうとする領域や範囲を設定ないし限定したにすぎません。その設定した 領域に関して「問い」を立てることが「序論」の目的です。 「問い」が不明確であれば、論じている内容が拡散し、内容相互の関係が 不明確になって、結局何が言いたいのか分からない論文になってしまいます。 「問い」すなわち「問題意識」を深く掘り下げるということは、「解答」 という目的地、着地点を明確にするということなのです。明確な「問い」を もたずに、論文を書き始めるということは、目的地をもたずに旅行にでるよ うなものです。着地点を確認せずにパラシュート降下するようなものです。 「問題意識」を明確にすることにより、最終的にその論述がどこに収束して いくのか、を示すことができるのです。


4.各部分で何を書くか:序論A
 

「 テーマを設定することは、論ずる範囲や分野などを明確にし、限定するこ とが目的です。」


   導入において、なぜそのテーマを扱うのか、動機や理由を示します。 (例:私の場合−テーマ:「海面下のガラテヤ3,4章−アブラハムへの祝 福の約束と律法−」、動機や理由:「旧約理解の柱としての”祝福の約束と 律法”におけるザウアー『世界の救いの黎明』と『ベテル聖書研究』の解釈 の視点の相違の整理の必要性」。)KBIの図書室にあります論文の序文を いろいろと比較して学ばれるとよいと思います。 テーマは個人的動機を手がかりやきっかけにすることは構いません。ただ それを一般に論じる価値があるとするところまで発展させたり、位置づけた りする工夫が大切です。多くの参考文献に目を通すことがそれを助けます。 また、テーマは、最初は広いものであっても、論文の分量と使える時間、 自分の能力を考えて、扱いきれる範囲にしぼっていかなければなければなり ません。テーマを広げすぎたままですと、時間ばかりすぎていって収拾がつ かなくなる場合もあります。


5.各部分で何を書くか:序論B

「テーマ(主題)に関して問題を立てます。この部分が、論文の中で「結論」 と共にもっとも重要な個所です。」

   テーマを立てました後に、そのテーマについて「問い」を立てます。 (例:テーマ「J.D.G.ダンの”イエスと御霊”に関する一考察」、問 い:「日本の福音派における『聖霊のバプテスマと異言の関係』についての 微妙な論争が存在する。これをどのように考えていけばよいのか。」) わたしの場合も、最初は聖霊論全体を研究していましたので、「聖書神学の 視点」「歴史神学の視点」「組織神学の視点」「実践神学の視点」における 聖霊論に関する資料を収集し、書籍を購入し、幅広く取り組んでいました。 しかし私の論文指導教官の宇田師は、最初の論文指導のときに、もっとテー マを小さくしぼるように指導してくださいました。それで、私にとって最も 問題意識のありました「聖霊のバプテスマと異言の関係」に関してその解答 を与えていると確信していました「J.D.G.ダンの”イエスと御霊”」 という著作をもって「解答」を与えるかたちに構成してわけです。

   構成とし ましては、 ●テーマ「J.D.G.ダンの”イエスと御霊”に関する一考察」 序:私の霊的系譜と論文、 @福音派における聖霊論の課題におけるダンの”イエスと御霊”、 Aダンの”イエスと御霊”の研究方法についての考察、 Bダンの”イエスと御霊”の結論についての考察、 Cダンの”イエスと御霊”の異言理解についての考察、 結論:福音派の聖霊論への一指針としてのダンの”イエスと御霊” というかたちにしました。この論文は事務室にありますので、また参考に してください。 「問題意識」さえ掘り下げることができましたら、それに「解答」を与え ていると思われる数冊の書籍や資料を見出したら、論文作成はスムーズに 進展します。あとは議論をどのようにうまく構成し展開していくかだけが 問題となるのみですから。

    ですから、みなさんが、論文のテーマをとりあえず決定されましたら、そ の論文の取り扱う射程がさだまったわけですから、そのテーマに関連しての 「問い」「問題意識」を短く疑問文で書いてみられると、論文の方向性が明 確にされていきます。 卒業論文では、テーマ自体を小さく限定することはもちろんですが、「問 い」についても、いくつもの大きな問いを立てることは避けたほうがよいで しょう。それよりは、「もっとも中心的な問い」つまり「主問」をひとつに しぼり、その主問に答えを与える手段として、具体性・限定性をもたせた 「小さな副問」をいくつか立てて、求心性を失わないようにするとよいでし ょう。


6.各部分で何を書くか:序論C

「提示した問題に対して、どのような観点から、どのようなアプローチと方 法によって解決を見出そうとするのかを提示します。」


   序論(ないし本論の最初の部分)で「問い」を掘り下げた後、その問いを どのような手順で取り扱おうとしているのか、どういう書籍や資料を材料に しているのか、などを記述することが必要です。 建物に例えますと、建築物(本論)を建築する前の設計図のようなもので す。これから、どのような建物を、どのような手順で建てようとしているの かを説明しておくということです。 私の場合は、KBIの卒論(レポート)においては、「ザウアーの聖書解 釈の方法」と「ベテル聖書研究の聖書解釈の方法」を比較研究し、整合性を 考慮したものでした。ザウアーの視点は「パウロ神学からの教理的視点」か ら「アブラハムへの祝福の約束と律法」を解釈したものであり、ベテルの視 点は「旧約のイスラエルの民自身の視点(生活の座)」から「アブラハムへ の祝福の約束と律法」を解釈したものでした。 また、共立での論文は「聖霊のバプテスマと異言」についての問題意識を 根底に据え、その問題に見事な解釈を加えているダンの聖書解釈方法とは、 どのようなものかを分析したものです。その分析の方法として、「ルネ・パ ディリアの解釈学的螺旋の四つの要素」と「レヴィ・ストロースの構造主義 人類学からの洞察」という分析の方法を用いて聖書解釈を分析したものです。 みなさんが、問題意識を整理し、掘り下げられた後、その「問い」に解答 を与えていると思われる資料や書籍を収集し、それらの資料・書籍を分析して いかれるとよいでしょう。この資料・書籍はどのような手順・方法によって、 この「問い」に答えているのかを明らかにされていくことは、それ自体が 論文作成につながり、あなたがたの論文に構成を与えるものとなります。


7.各部分で何を書くか:本論@
 
「論文の型式は『テーマとねらい』や扱い方に応じて選ぶ必要がある。」

 論文の型式については、多くの型式が可能と思われますが、参考のために いくつかの代表的な型式を紹介しておきます。以下のものを参考に、さらに 独自の「問い」に対して、独自の型式をつくりあげていってもよいのです。

 @論証型

   テーマに関して何らかの仮説を立てて、それを証明していくというもので、 最も一般的な型です。仮説とはテーマについての自分なりの結論です。仮説 の正しさを納得させることができる資料を示し、それらを説明しながら証明 していく方法です。 私の共立で書いた論文は、このタイプでしょう。「異言は”アバ父よ”と いうクリスチヤンの根源的な意識からの派生語である。」という仮説をダン の聖書解釈を通して論証していった論文です。資料源となったテキストが洋 書だったので、かなり苦労しました。 

A描写型

   テーマをさまざまな側面から説明していくものです。取り扱う対象を説明 した後、それについて何がどう行われたのか、これによってどのような結果 を招いたのか、その問題点は何かといったことを論じていけばよいのです。 例えば、「世界宣教の動向」に問題意識があれば、WCCのエディンバラ 会議からバンコク会議までの動向を描写し、聖書的に宣教のあり方が歪めら れてきた経緯を明らかにします。そしてそのような背景において、福音派に おけるローザンヌ会議においてどのような誓約がまとめられたのか「エキュ メニカル派の宣教理解」と「福音派の宣教理解」を対比しながらまとめてい けば良いのです。

 B比較型

   テーマについてのいろいろな見方、考え方をまとめて比較するものです。 できるなら最後に自分なりの見方を示すのがよいでしょう。 私のKBI論文も二つの聖書解釈の方法の比較研究でありました。他の例 をあげますと、「宣教の理解をめぐる福音派教会内における最近の傾向」と いうテーマにおいて「フラー神学校、トリニティー神学校、ウェストミンス ター神学校におけるコンテクスチュアリゼーションにおける理解」の比較研 究をしたものがあります。

 C解説型

   テーマに関したある事象を論じ、それがもたらすと考えられる影響、結 果を解説するものです。これはある事態を中心としての現状の分析です。 例えば、「今日における救済論理解」というテーマで、A.戦前における 「救い」の理解について「個人の罪としての理解、因習からの解放としての 理解、国造りとしての理解」、B.戦後における救いの理解「虚無感からの 脱却、生きがいの発見としての救いの理解」C.リベラルな教会における救 いの理解などを描写し、その神学的背景と問題点を解説し、今日の状況にお いて聖書的な「救いの理解」をどのように展開していけばよいのかを提示す ることができます。

 D発掘型

   何が起きたのか、何があったのかという点について、これまでに明らか にされている資料を継続している論争などを踏まえ、真実に迫ろうという ものです。新たな資料や証言などを手に入れることができたり、斬新な切 り口で分析できたりすれば大成功ですが、既存の資料や議論をなぞること に終始する危険性もあります。 例えば、「天皇制下のキリスト教会」というテーマにおいて、日本人ク リスチャンやキリスト教会の指導者たちが国策と天皇崇拝に妥協していっ たのはなぜかという問題意識を設定し、それに対して比較宗教学の学びな どを材料にして根源的に掘り起こしつつ分析し真実にせまることができま す。

 E人物型

   テーマに特定の人物を選び、その人物史、人となり、業績などを論じる ものです。歴史上の人物でも現存する人物でもよいのです。 例えば、ビルマ宣教の父と呼ばれるアドニラム・ジャドソンを扱います と、彼の生涯を伝記的に扱いますとともに、彼のビルマ宣教において、な ぜ仏教徒の地域ではほとんどの実がなかったのに、山岳のシャーマニズム の地域ではおおきなリバイバルを経験したのか、なども興味深いテーマと 思います。 種々の参考文献や資料、関連の論文などをみていくときに、この論文は どのようなタイプの論文なのかを見分けてみたり、また自分のテーマにお いて「問い→議論展開→解答」を構成するにはどのようなタイプが一番良 いかを考えてみることはいいことです。

8.資料の収集ノウハウ
 

「 必要な情報がどこにあるのかを探り出す情報探知の能力と、資料から必 要な情報を得る情報抽出の能力を磨かなければならない。」 

@論文作成において、自分がどんな情報を必要としているのかを明確に意識 しておかねばなりません。「問い」が明確であれば、何を必要としているの かが明確になります。

 A新聞利用は情報収集の基礎です。新聞や雑誌などの一般的な資料から得ら れる最近の情報に敏感であることが大切です。必要に応じて、切り抜きをし たり、あるいはコピーしたり、メモしたりしておきます。

 B人情報ネットワークからの情報も大切です。神学生の友人や教会員や牧師 、そしてKBIの教師との対話において、あなたの論文のテーマに関係する 話題を話し合いなさい。何気ない雑談の中にはっとするような発見があるも のです。

 Cパソコンを活用することも大切です。現在共立で学び、論文に取り組んで おられる高橋めぐみ宣教師(準備中)は、インドネシア宣教に関する論文に 取り組まれています。「それでインドネシアのある部族に関する資料が必要 なのですが、どの先生に聞いてもどこにもみあたりません。」とのことでし た。それで、インターネットで「アルタ・ビスタ」という検索マシンにその 部族の名前を打ち込みますと、たくさんの情報がつまっているホームページ のリストがでてきました。彼女は「インターネットをやり始めていた良かっ た。」と言っておられました。書籍ではとても手に入れることができないよ うな情報がいとも簡単にインターネットを通してただで手に入れる(電話代 はいりますが)ことができる時代なのです。

 D図書館を利用します。KBIの図書室、また関学の宗教センターにある図 書室も利用できます。手始めに近くにある都道府県の中央図書館に出かけ てみるとよいでしょう。また、この機会にこの関西にあるいろんな専門図書 館についても聞いてみるとよいでしょう。またその図書館を通して、国会図 書館の資料や海外の図書館の資料なども送料と手数料で読むことができます。 図書館に関する情報もインターネットを通して、どのような資料・書籍があ るかをKBIのパソコンから調べることができます。

 E書店を利用します。大阪の紀の国屋書店や旭屋書店、また大阪ライフセン ター、カベナンター書店、神戸キリスト教書店、西宮聖文社などの書棚から 直接書籍をとって調べることもいいことです。参考になる重要書籍は購入す るとよいでしょう。貴重な書籍である場合、KBI図書費で購入させていた だく場合もありますので申し出てください。インターネット上にあります 「紀の国屋ブックウェッブ」には梅田の書店以上の300万冊の書籍がリス トされていまして、購入できるようになっています。

 Fその他、みなさんの教会の牧師の書斎やKBI教師の書斎からも貸してい ただくことが可能と思います。ただ、借りる場合、借りっぱなしにならない ように、借りる書籍名と期間を明確にして借りることが大切です。