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今日の神学界の状況
組識神学の四つの機能
11/07/19
“CONTEMPORARY(コンテンポラリー)”という語を辞書で引くと「現代の、同時代の」という意味が記されている。つまり、継続神学教育の主要な課題である「今日性(たった今の必要)」、この言葉が今日の神学界の状況を解くひとつのキーワードだというのは明白である。このことを理解するために、宇田進師の「組織神学の方法1」についての研究ノートから要点を拾ってみることにしよう。
世界の神学界の状況
「世界の神学界を振り返ってみると、第一に、神学者の生命あるいは活動期は、変動が加速的に進行しつつある現代という時代状況を反映してか、ますます短命化しつつある。第二に、代表的な諸学派が次第に姿を消し、いまや組織神学界は多様化の様相を濃くしてきている。第三に、今日、いわゆる神学的巨星といわれる神学者の不在という事実がある。・・そしてこのような神学界を直撃したのが一種の知識革命とも言える近年の“知識の爆発的増加”と、学問研究の“専門分化”の急激な進行という現象である。研究活動においても、いわゆる“ホリスティック(全体的)”というより“アトミスティック(原子的)”な傾向が強くなってきたために、神学者たちは教理体系の全体を扱うことにますます困難を感じるようになってきている。2」
組織神学の四つの機能
「第一は組織神学の『教会的ないし実存的機能』である。組織神学はただ教会の肢として、教会の委託、教会に対する奉仕の意識をもって行う学であり、ただ単に信仰についての思考にとどまらず、むしろ信じつつする思考である。神学は、全く中立的な学問ではありえず、むしろただ実存的にのみ関わりうる学問である。なぜなら神は、あらかじめ神によって捕らえられることなしには、理解しえない。神賛美でない、とりわけ実践的な知識でない、新生した者の神学でないような神学は、もはや神学とは言えない。それは宗教学である。
第二は、組織神学の『再生産的ないし要約的機能』である。これは聖書的使信あるいは聖書の教えを要約して捕らえることである。
第三は、組織神学の『生産的ないし新理解的機能』である。伝統的関連以上に重要なのは、組織神学の状況的関連である。それは聖書的・教会的ケリュグマをただおうむ返しに語るのみでなく、むしろ新しく語られねばならない。伝統をただ単に要約するにとどまらず、新しく理解しなければならない。それは“かつてそうだった”と語るのでなく、むしろ“現在こうである”と語るのである。いわゆるコンテクスチュアルな神学の必要性である。
第四は、組織神学の『合理的ないし学問的機能』である。これは啓蒙時代以来ずっと近代教義学の本質的構成要素となっている批判的学問性(魔術的に墨守する遺産をこしらえる非批判的伝統主義に感情的に固着することから神学を守る)の問題である。今日では、この批判的学問性をどう理解し、どう立証するかに議論が集中している。これには大別して二つの立場がある。ひとつは、『命題は無前提という意味ではないが偏見のないこと、自然科学に不可能なことは、神学の学問性にとっても不可能であるという基準の下、近代の世界観と近代の自律的理性による思惟に立ちつつ神学の学問性をさぐりかつ確立しよう』とする立場である。これに対し、『神学ではあらゆる場合に偏見のなさという要請は、完全には受け入れられない。なぜなら神学は、啓示や信仰の偏見から出発しているから、また神が、神についての学問以前にあり、さらにこの学問は、神学的循環の中に存在するからである』とする立場がある。
組織神学の四つの機能
↑
近代主義 合理主義
生産的機能 合理的機能
← + →
実存的機能 再生産的機能
非合理主義 伝統主義
↓
組織神学の定義
聖書神学−歴史神学と実践神学との間の結び目として、組織神学はその規範たる聖書と結びついて、@実存的、A再生産的、B生産的、C合理的機能を発揮する。したがって、それは聖書の使信を要約し、私たちの時代に対し新たに理解していこうとする、神についての教会的学問と定義される。3」
福音派神学における課題
「従来、福音派の組織神学は第一の『教会的ないし実存的機能』と、第二の『再生産的ないし要約的機能』をはっきりと主張してきた。つまり、新生した者による教会に仕える学としての神学と、『聖書の類比』の原則に基づいて聖書の教えの全体像を明らかにするという再生産的機能とを強調してきた。だが、第三の『生産的ないし新理解的機能』と第四の『合理的ないし学問的機能』についてはどうであろうか。
いままでの福音派の組織神学は、聖書の教えを要約的に捕らえ、ひとつの体系にまとめあげるという再生産的な働きを中心として考える立場のものが多かった。しかし、最近、“コンテクスチュアル”なアプローチの重要性に気づいた神学者たちは、組織神学の展開におけるノン・コンテクスチュアル(文脈無視)、ア・ヒストリカル(無歴史的)、ノン・コンテンポラリィ(非現代的)な性格に問題を感じ始めている。そして、八十年代にあらわされた福音派の神学者たちの著作は、その視角とアプローチはそれぞれに幾分違っているが、皆共通にその第三および第四の機能との積極的な取り組みを特色としている。1」
今日、注目を集めているコンテクスチュアリゼーションの課題もこれらの四つの機能を視野に入れて取り組む必要がある。
1.宇田進「組織神学の方法」
2.M.Erickson“Christian Theology”
3.H.ペールマン「現代教義学総説」