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二つの聖書観
リベラル派と福音派の対比
11/07/19
前回はルネ・パディリアの論文より聖書解釈における「文化脈化」アプローチを紹介させていただきました。その要点は、解釈者の歴史的状況と解釈者の世界観ー”つまり解釈者がどのような者であるか”ーが、その聖書解釈と神学形成に深い関わりを持っているということでした。
今日、「私たちが一体何者であるのか」を問う、ルーツとアイデンティティの課題が真剣に取り上げられていますが、これらをどう捉らえていくのかは、私たちの聖書解釈と神学形成に深い影響を及ぼします。福音派(カリスマ派を含む)の品質証明の主たるものは、はっきりと聖書に立つことです。問題は、わたしたちの聖書観と聖書解釈と聖書の使信の伝達です。
今回は、今日のプロテスタントにみられる二つの聖書観をみることにより、私たちの聖書観の点検・整備を試みることにしましょう。
T.開かれた知性の立場
この立場は、リベラルの立場であり、自立的近代理性に基づき、人間中心主義的に、特定の世界観(超自然主義にアレルギー)と手を結んだものです。そこでは聖書のかなりの部分が神話的として削除され、再解釈の対象とされてしまいます。そこにおいてなされている作業は、科学的学問的方法というよりは、ある種の予断と偏見に基づいている場合が多いようです。
U.聖書の自己証言の立場
この立場は、福音派の一員としての私たちの立場であり、次のように説明することができます。
〔法廷における一般的権利〕
a.すべての人は、自分自身について語り、自分を弁護する権利を持っています。
b.ある特定の真実は、本人以外には他の人に知られないものがあります。
聖書が「神の言葉」であることに対して、リベラルな立場から種々の論争が挑まれて久しいのですが、今日「聖書が神の言葉である」ことを私たちはどのように論証すべきでしょうか。私たちにとって最も必要なことは、「聖書自身が提示している聖書観」に基づくことです。私たちが聖書を神の言葉として証言する以前に、聖書自身が「自己証明的”Self-Authenticating”」な書物として本質規定されていることを知ることです。福音派の一員としての私たちの取るべき立場とは、そのような「聖書の自己証言を尊重する立場」に立つことです1。
V.聖書の自己証言の輪郭
聖書は今日神の啓示を得ることのできる唯一の通路であり、場であります。啓示的文書としての聖書は、自己自身について次の点を明らかにしています。
@聖書は「霊感」と呼ばれている聖霊の働きのもとで与えられた。特に、この「霊感」は「神の口から吹き出された」を意味しており、聖書の神的起源を語っている。Uテモテ
3:16
Aこの「霊感」は、旧約の預言者たちや新約の使徒たちが書き記した最初の原本について言われている。Uペテロ
1:21
B聖書のすべての聖句が同一の重さと価値とを持っているのではないが、使徒たちは聖書のある部分だけではなく、全体を啓示的文書として受け止めていた。ローマ
15:4
C「霊感」は聖なる文書について言われているので、「霊感」の及んだ範囲は、ただ聖書の思想だけではなく、思想を伝えていることばそのものを含むものである。マタイ
4:4
D聖書は、聖霊と人間のペン、つまり神的要因と人間的要因による一つの有機的な連合の実である。この点は、キリストの神・人二性に対し類比を持っていると見られる。Uサムエル
23:2
Eそのようにして与えられた聖書は、神のことばである。マルコ
7:13
F聖書は真実なものであると共に、真理である。詩篇 119:86
G神のことばとしての聖書は、神的権威を帯びており、私たちに信仰と服従を要求する。イザヤ 1:2
H聖書は、罪人を信仰による救いに導くのに十分な光を持っているので、他のいかなる補足物も必要としない。Uテモテ
3:15
I救いのために知り、信じ、守るべき事柄は、聖書の中にだれにでも理解できるような形で明瞭に示されている。詩篇 119:105
J聖書の中心的目的は、人間にキリストを示し、神による救いを得させることである。ヨハネ
20:31
K聖書は、生きていて力があり不毛に終ることがない。ヘブル
4:12
L聖書が神のことばであることを究極的に確信させるのは、私たちの心のうちで証言する聖霊御自身である2。Tコリント
1:22
上記の事柄は、私たちの流れにおける暗黙の了解事項であろうと思います。福音派教会内部における「聖書の真理の喪失の事態」と「アイデンティティの希薄化現象」に警鐘が鳴らされている今日、聖書観におけるこれらの確信をより確かなものとしていくことが大切と思います3。
1.拙稿「私の聖書観」第三の波の研究シリーズ No.26
2.宇田進「啓示」新聖書辞典
3.D.ウェルズ ”No Place for Truth”
(抜粋・編集:安黒務)